あたしは今日も月を抱く。
白くて冷たくて、そばにあるのに近づけない月を。



朧月が静かに投げかける光に、あたしはふっと目を覚ました。
あたしの肩から背中にかけてまわされた右腕は、あたしの曲線に吸い付くようになじんでる。
決して太くはないくせに、まるでゆりかごみたいにガッチリとあたしを包み込む。
肩に頬を乗せたまま仰向くと、銀色にサラリと輝く髪が見えた。
枕に散らされた銀色。
ピクリともしない閉ざされた双眸。
死んだみたいに、寝息も聞こえない。


それを見ていたら、なんだか急に、ものすごく寂しくなった。
2人でいるくせに、これほどの強い孤独を、あたしは1人のときに感じたことがない。
この男のせいだ。
あたしは衝動的に体を起こそうとした。


その時。
悪戯っぽく、その口角が上がるのをあたしは目の端に捕らえた。
「っ、ギン・・・!」
あたしの抗議よりも早く、その右腕に力が入って、あたしの体は軽々とギンの上に押し付けられる。
同時にまきつけられた左腕が、ぎゅうっ、とあたしを腕の中に閉じ込める。


「何を考えとるん」
笑みを含んだ低い声が、投げかけられる。
答えようにも、こんなに頬が胸に押し付けられた状態で喋れるわけないじゃない。
「何も、考えんでええ」
その男にしては細くて長い指が、あたしの髪をいたずらに撫でてゆく。
あたしが、髪を撫でられるのが好きだって知ってるのは、この男だけ。
大人の女にしか見えないだろうあたしには、似合わないだろうけど。


気持ちがゆっくりと溶けていく。ギンと交わってゆく。
あたしはふぅ、とため息をギンの胸に落す。
指先をそっと、ギンの裸の胸に触れさせる。
何を、想ってるの?
石みたいに止まっているのか、波打っているのか、それとも凪いでいるのか。
あなたの音を聞かせて。


つ、と手のひらが胸に触れたとき。
いつの間にか伸びてきたギンの手が、あたしの手をつかまえた。
空を切ったあたしの指先を、ギンがゆっくりと包み込む。
こんな近くにいても、あなたの心が見えない。
お願い、あなたに触れさせて。


ひとやすみ様よりお題をお借りしました。 01〜10話「ちょっぴり切ない10のお題」

[2009年 2月 28日]