それは、ふとした瞬間。
こみあげてくる感情がある。


ガタンゴトン、と電車が通り過ぎる。
駅前では、次々と吐き出される人たちに、せっせとティッシュを配る人たち。
携帯売り場の前では、すらりとした足の女の子たちが声を張り上げる。
そこをすり抜けるあたしの足音も、こんな喧騒じゃ聞こえない。


今日はよくやったわ、てあたしは思う。
テストの点数は友達の中で一番上だったし。
体育のバレーボールはうまく動けなかったけど・・・でも、みんなドジなあたしを見て笑ってくれたから、楽しかった。
英語の授業中も、ヤマ張ってきたところがばっちり当てられて、ちょっとあがったけど、ちゃんと答えられたし。
下校するときに・・・教室から出ようとする黒崎くんに、ちゃんと「また明日」って、言えたから。だから、今日はいい日。


「ご褒美あげちゃおっかなー!」
あげちゃうのは、もちろん頑張ったあたし自身に。
あんまり高いものは買えないから、1000円くらいのアクセサリーとか。
ちょっと奮発したスイーツとか。ちょっぴりシアワセになれる何かを。


そう、自分にご褒美をあげなきゃ。
毎日、毎日。学校が鉄格子がない牢屋みたいだったときのことを思い出す。
髪の毛が明るすぎる、生意気だって言って髪を切られて。
授業中も、みんながそれを知ってて、冷たい目で見てるみたいな気がして、
休み時間が一番辛くて、机に突っ伏してたっけ。
あの時に比べたら、ちゃんとあたしはやれてる。
今週末はカラオケに行って、おいしいもの食べて・・・
冬休みは、みんなで温泉に行こうって話しもしてる。
立ち止まってる時間なんてないんだ。


ふと。足が止まった。
3秒・・・5秒・・・周りの人が、どうしたんだって顔であたしを見て通り過ぎてく。
中には、あからさまに怪訝な顔してる人もいる。
―― やだ。また来ちゃった・・・
それは、おかしな感覚。
急に金縛りになったみたいに体が止まって。動かそうとすると、悲鳴を上げる。
―― 歩いて、どこに行こうって言うの?どんな意味があるのよ?
―― 毎日毎日、同じこと繰り返して。なんのためよ?
―― 結局あの時だって今だって、わたしは1人っきりじゃない。
頭の中に、いろんな声が混ざる。
我慢できない。しゃがみこみたい。そして大声を出して泣いてしまいたい。
あたしは、その正体が何か、いつごろか気づいてた。
それは、「孤独」。
全ての楽しいこともやらなきゃいけないことも、全てどうでもよくなってしまうほどの、強い「孤独」。
必要なのは、かわいいアクセサリーじゃない。
おいしいケーキでも紅茶でもない。
誰かが笑顔を向けてくれればそれだけで、よっぽど効果があるのに。


「あたしは、孤独なんかじゃない・・・」
ちいさく呟いたその声が、本当に小さくて、あたしは自分でハッとした。
大人になれば、こんなどうしようもない気持ちからも、卒業できるのかな。
すう、と小さく息をつく。
そして、人の流れに合流するみたいに、もう一回歩き出す。
気がつけば、足は夕日が差し込む土手に向いてた。


ぱっと景色が開かれた、って思った瞬間、あたしは土手の道にたつ女の子を見つけた。
「朽木さん・・・」
中途半端に体を捻って振り返って、何をみてたんだろう。
その方向には、なにもないのに。
ちらり、と見えたその横顔に、あたしはドキリとする。
それが、びっくりするほど、あたしに似てたから。
すう、と今度は大きく息を吸い込んだ。
わかるよ、朽木さん。いま、何を考えてるか。
でもきっと、ひとりじゃないから。朽木さんも、そしてあたしも。
あたしは顔いっぱいに笑顔をつくって、
「朽木さーん!!」
大声で、呼びかけた。


ひとやすみ様よりお題をお借りしました。 01〜10話「ちょっぴり切ない10のお題」 ルキア→織姫の「一人で見る夕焼け」と対になってます。

[2009年 2月 28日]