「……おいお前、本当に義骸じゃねぇのかよ?」
「違いますよーだ」
「……そうか」
「隊長こそ、今のソレも義骸じゃないでしょうね」
「ンな何個も義骸はねぇよ」
「……ですよね〜」
「……」
各々の義骸を十二番隊に返しに行った帰り道(互いの義骸を担いで入っていった二人は、異様な視線に迎えられた)、
二人はいつもよりゆっくりと歩いていた。
通りの端から端に離れて歩いている二人を、他の死神達が不審そうに眺めていく。
「……」
「……」
気まずい。気まずいこと、この上ない。
やっぱりアレを聞かれてたんだろうな、と日番谷は頭を抱えたい気持ちになる。
アレを聞いてしまったからこそ、今の日番谷だって義骸じゃないかという質問が出てくるんだろうし。
この際だ、言っちまうか。
日番谷は、不意に立ち止まる。
しばらく歩き続けた乱菊が、それに気づいて立ち止まる。ギギギ……と、音を立てそうなぎこちない動きで振り返る。
おいそんなんでよく舞踊が踊れるな。そう思ったが、軽口を言う心のゆとりはなかった。
「……」
「ななな何ですか隊長?」
しばらく、まるでこれから決闘する相手を見るように乱菊をにらみつけていた日番谷が、不意にため息をついた。
「なんでも、ねぇよ」
ぽんと放り投げるように言うと、そのまますたすたと歩き出す。
ダメだ、まだダメだ。そう決めていたはずだ。
松本の身長を越えるまでは、気持ちを打ち明けることはしないと。
隊長ー、と声を上げながら、乱菊が後ろを追ってくる。
この関係は、まだまだ当分続きそうだ。まあ、悪い気分ではない。
日番谷は振り返りざまに、手の中の玉をポーンと乱菊に向けて放った。コン、と乱菊の頭にあたり、
「痛ぁ!」
大げさに悲鳴を上げる。それを拾い上げて、きょとんと見つめた。
「何です? これ」
「キングの義魂丸だ」
何を思っているのか、口をもたない義魂丸は沈黙を守っている。
乱菊はそれを見下ろして微笑むと、そっと口付けた。
「……」
日番谷が、すたすたとまた歩き出す。
「嫉妬ですか? 隊長」
「……。うっさい!」
振り返りかけたその耳が、ちょっと赤くなっているのを見て……
乱菊はくすくすと笑いながら、またその背中を追いかける。