ツクツクホーシ、ツクツクホーシ、しゅわしゅわしゅわ……

昼下がりの十番隊執務室で、カキ氷を賭けて対局する日番谷とやちる。
それを息をつめて見守る、乱菊、一角、弓親の三人。

なんで、こんなことになってんだ……?
日番谷は、パシッと白を置きながら、暑さでぼんやりとする頭で考えた。

大体、と日番谷はえっちらおっちら考えを進める。
考えてみれば、氷を出したほうがよっぽど早いじゃねえか!
それに、オセロに勝てば毎日氷をもらえて、負けたところで損するわけじゃねえし、
こいつには何のデメリットもねえ。
ニコニコしながら黒を置くやちるの顔が、いつになく黒く見える。

この野郎……
日番谷はフツフツと闘志を燃やした。



そして、三十分後。
いなくなった三人を探しに来た更木は、遠慮も何もなく、がらっと十番隊執務室の引き戸を押し開けた。
「おーい、邪魔するぜ……って、どうした?」
引き戸を開けて真っ先に目にしたのは、目当てのやちる、一角、そして弓親。
正確には、

あんぐり。

とばかりにあけられた三人の口だった。


「初めに言ったとおりだ、もう氷は出してやんねーぞ。気が済んだら帰れ」
日番谷が無造作に言い捨てて、長椅子の背もたれに体を投げ出した。
テーブルに置かれたオセロ台は、三分の二くらいを白が占めている。
日番谷冬獅郎の圧勝、だった。

天才少年、おつむの弱い少女にオセロで勝つ。
確かにそれは当たり前、といえば当たり前の結末なのだが。
十一番隊内では無敵の強さを誇るやちるが敗北を喫するなどとは、負けまくっている一角にも衝撃を与えた。
――ん? 十一番隊内……?
それがそもそも比較対象としてマズかったのかもしれない。

「さ。行きましょう、副隊長。勝負は勝負ですよ」
弓親がさらりと言って立ち上がり、やちるの頭を見下ろした。
「ん……」
やちるが声を発する。
暴発するか? 暴発なのか?
爆発物を見るような目で、更木をのぞく全員が、それとなく身構える。

しかし。
やちるは、そのまま無言で立ち上がった。
呆然として見守る一同を尻目に、やちるはオセロ台に背中を見せると、トボトボと肩を落とし、更木のほうへ歩み寄った。
少なからず、ショックだったらしい。

そのことに気づいて、その場を微妙な空気が流れた。
―― あーあー、本気でやっつけちゃってまァ……
という非難の目を、日番谷は一身に受ける。
日番谷は知るか、という表情でソッポを向いている。
考えてみれば、日番谷には何の落ち度もないのだ。

しゅん、とやちるが鼻を鳴らす音が聞こえた。
そして、ぴょん、と更木の背中に飛び乗り、その肩に顔を埋める。
更木が、一角と弓親をざっと見ると、廊下に向き直った。
「オイお前らも、帰――」

だん!!!

突如響いた音に、その場の全員がぎょっとして振り返る。
日番谷が、踏み抜かんばかりの勢いで床を踏み鳴らし、立ち上がったのだ。

憤懣やるかたなし、という表情の日番谷が、大股で自席に向かうのをぽかんとして見守る。
「氷を出せばいいんだろう、氷を!!」
「ひっつん大好き!!」
日番谷が氷輪丸を引っつかむのを見て、やちるがパーッと顔を輝かせた。
それを見て、プーッと乱菊が噴き出す。
「それじゃ、意味ないじゃないスか……」
「だまれ!」
最悪のタイミングでもっともな突っ込みを入れた一角は、放たれた氷輪丸の一撃で氷付けにされた。

 
***
 

「やっぱりカキ氷はブルーハワイよねー♪」
「あたしメロンがいい!」
「氷そのままのほうがうめーよ」
やいのやいのと賑やかな十番隊執務室。最早、執務室の体をなしていないが。

日番谷は自席の机に、初めと同じように突っ伏している。
―― 今夜は徹夜だ……
山積の仕事を思い浮かべ、そう思ったとき。
ぴとり、と頬につめたいものが押しつけられた。

顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべる、やちるの姿。
「最後のメロン、ひっつんにあげる!」
「……」
「なーに?」
何か言いたげな仏頂面を向けた日番谷に、やちるはきょとん、と首を傾げる。
はぁ、とため息をつき、日番谷は無言で差し出されたカキ氷を受け取った。

日番谷冬獅郎、今日も草鹿やちるに敗北を喫す。

執務室の窓の向こうでは、ここぞとばかりにセミが鳴いている。
秋までは、まだ長そうだ。

 


日番谷とやちるとオセロゲーム 完