目を開けると、部屋の天井が目に入った。
見慣れた木目を見上げているうちに、徐々に目が覚めてくる。
もう一度布団にもぐりなおそうと思った時、胸の上に何か置かれているのに気づく。
不審に思いながらそれを手で避けようとして、その感触に眉を顰める。
なんだ? これ。やわらかくて温かいそれを見下ろして、思わず声を上げそうになる。

雛森の寝顔が、目の前にあった。
俺の体を抱え込むように、体温を感じるくらいすぐ隣で寝息を立てている。
俺が摘み上げていたのが雛森の掌だと気づいて、どうするべきかうろたえる。
というか、俺は一人で戻ってきたはずなのに、どうして雛森が一緒に寝ているんだ?


混乱した頭で、昨日のことを思い出そうとする。
昨日は、松本が別件で不在だったために代打でやってきた雛森と、現世で破面もどきと戦った。
中々手ごわく、結局虚圏まで追い詰めてやっと倒すことができた。
それはいいが、長時間発し続けた霊圧のために、戦いが終わった頃には俺の体は冷え切ってしまっていた。

瀞霊廷へ向かう断界の中で、俺に何気なく触れた雛森は、触ると同時に指を引いた。
「日番谷くんっ、ものすごく体、冷えてるよ? 風邪引いちゃうよ!」
「日番谷『隊長』だっつってんだろ」
おそるおそるもう一度触れようとしてくる指先を、振り払う。
心配そうな視線がなんだか居心地悪く、そのまま背中を向けた。

「いいから、戻ったら風呂入って寝ろ。お前こそ寒さは苦手だろ?」
不在だった松本の代打で雛森が来たのはいいが、そもそもこいつは寒さは苦手だ。
霊圧を放出した俺の隣にいて、辛くなかったはずはない。
一緒に暮らしていた頃、毎年のように冬は風邪を引いていた姿を思い出していた。

断界を抜けると、急に瀞霊廷の整然とした町並みが広がる。
すでにとっぷりと夜は更け、通りに灯された灯りが寂しく見える。
「じゃな」
そう言って、自室に向かったはずだ。



「一人、だったよな……?」
とすれば、俺が部屋で寝入ったあと、こいつはわざわざ追いかけてきたということだろうか?
一体なんのために?

そこまで考えて、俺はふと、握ったままの雛森の手が妙にあたたかいのに気づいた。
熱でもあるのか、と目を凝らすと、雛森の体がわずかに、赤く光っているのに気づく。
霊圧を高めることで、周りの温度を上げているのか。
そういえば、寝る前には体が震えるほどだった寒気が、嘘のように消えていた。

俺は、そっと雛森の掌を布団の上に落とす。
体勢を仰向けから横向きに変えると、雛森の寝顔と向かい合う。
湯のようにあたたかな雛森の霊圧が、自分を包み込むのを感じる。

もうちょっとだけ、気づかないふりで。
この温かさに身をゆだねるのも、いい。
穏やかな眠気が、全身を包み込むのを感じながら、もう一度目を閉じる。