虚を追ってあたしの先に立つ、その背中に、隊首羽織の「十」の字が翻る。
走っても、走っても、追いつけないことにビックリした。


鬼ごっこして、いつまでもあたしに追いつけなくて、
わざとスピードを落したら、ものすごく傷ついた顔をされたっけ。
あれは、それほど昔のことじゃないはずなのに。


おかしいな。
あたし、こんなに遅かったっけ。日番谷くんが速いの?
その背中は相変わらず小さくって、あの頃と全然かわらないのに。


「雛・・・」
日番谷くんが、振り返る。その目が、見開かれる。
「きゃぁっ!!」
足が、地面の木の根っこにあたって、全身が前につんのめる。
ありえない失態。景色がぐるんと回った。



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日番谷くんに負ぶわれた帰り道。
その肩に手をかけて、背中を見下ろす。

ああ。

大きく、なったんだね。
いっぱい勉強して、いっぱい修行して、食べて眠って。
あたしの、知らないところでね。


あたしはただ、シロちゃんのお姉さんでいたかったんだと思う。
だから、隊長になっても、一度も隊長って呼ばなかった。
認めたくなかったんだ。寂しかっただけなんだ。
あなたの背中が、とっくにもう遠ざかってしまっていたことに。


日番谷くんがあたしをいつも追っていた、
戻らない日々にちょっと、妬いた。


その背中の「十」、十字架に似てるね。
あたしから離れても、変わらず幸せになってね。
こっそり、そう祈った。





ひとやすみ様よりお題をお借りしました。 01〜10話「ちょっぴり切ない10のお題」 みっ、みじか……! たまにはこんなのもあります^^;

[2009年 2月 28日]