虚を追ってあたしの先に立つ、その背中に、隊首羽織の「十」の字が翻る。 走っても、走っても、追いつけないことにビックリした。 鬼ごっこして、いつまでもあたしに追いつけなくて、 わざとスピードを落したら、ものすごく傷ついた顔をされたっけ。 あれは、それほど昔のことじゃないはずなのに。 おかしいな。 あたし、こんなに遅かったっけ。日番谷くんが速いの? その背中は相変わらず小さくって、あの頃と全然かわらないのに。 「雛・・・」 日番谷くんが、振り返る。その目が、見開かれる。 「きゃぁっ!!」 足が、地面の木の根っこにあたって、全身が前につんのめる。 ありえない失態。景色がぐるんと回った。 *********** 日番谷くんに負ぶわれた帰り道。 その肩に手をかけて、背中を見下ろす。 ああ。 大きく、なったんだね。 いっぱい勉強して、いっぱい修行して、食べて眠って。 あたしの、知らないところでね。 あたしはただ、シロちゃんのお姉さんでいたかったんだと思う。 だから、隊長になっても、一度も隊長って呼ばなかった。 認めたくなかったんだ。寂しかっただけなんだ。 あなたの背中が、とっくにもう遠ざかってしまっていたことに。 日番谷くんがあたしをいつも追っていた、 戻らない日々にちょっと、妬いた。 その背中の「十」、十字架に似てるね。 あたしから離れても、変わらず幸せになってね。 こっそり、そう祈った。
ひとやすみ様よりお題をお借りしました。 01〜10話「ちょっぴり切ない10のお題」 みっ、みじか……! たまにはこんなのもあります^^;
[2009年 2月 28日]