----------------------------------------------------------------------------- 棺桶(かんおけ): 症状:入ったら癒される。気持が弾む。 対処:どうしても耐えられなければ、入って良し。 血(ち): 症状:飲みたくなる。 対処:我慢すべし。どうしても耐えられないなら、バンパイア同士でやってください。 大蒜(にんにく): 症状:立腹する。 対処:我慢してください。 バンパイアの皆さまからのお願い: 大蒜、聖水、十字架の類をちらつかせるのは止めてください。効果があるどころか、逆効果です。 卯ノ花烈 拝 ----------------------------------------------------------------------------- 「……」 日番谷は仏頂面で、「バンパイアのしおり」と書かれたその紙を見下ろしていた。 眉間には、瀞霊廷が滅亡したかのような、深い、それは深い皺が寄っているr。 「まー・つー・もー・とー……」 怒りの源を睨み据え、バン! と机を叩いた。 「いつまでも笑ってんじゃねえ!!」 「だ、だって」 乱菊は、笑いすぎて掠れた声で、やっとのことでそう言った。 「十二番隊から贈られてきたコレ、そうとう気がきいてると思いません?」 ぺしぺしと、隊首室の壁に立てかけられたソレの表面を叩いてみせる。 「ほぉ。確かに見事な棺桶だ。で? どこが気がきいてると?」 「サイズ」 乱菊は即座に答えると、棺桶を指差した。その丈は、乱菊の肩くらいまでしかなく、通常の棺に比べて、明らかに小さい。 嫌がらせに思えるほど完璧に、133センチの身長にジャストフィットするように作られている。 「出て行け!!」 「は、はぁい! その迫力に、思わず乱菊が隊首室から飛び出す。そして、最悪のタイミングで入れ替わりに入ってきたのは一角だった。 「……これは」 「すんません」 日番谷は、一角によって隊首机の上に置かれた、一枚の報告書に眼を落としていた。 ―― おじい、ごめんね。 草じし やちる。 「オイコラテメー」 「スンマセン!」 ひとつの単語のように読み上げた日番谷に、一角はひたすら頭を下げるばかり。 こいつ、意外と苦労人だな、と日番谷はそれを見て、怒りを押さえ込む。 ここで一角の首を絞めても、問題の解決にはならない。 今回任務を任されたのは十一番隊で、最も華々しく失敗したと思われるのも、十一番隊だ。 したがって、十一番隊が報告書を上げるのが、一番筋が通っている。 しかし。文字が書けるのかの疑いすらかかっている更木隊長と、あの草鹿やちる副隊長。 ゴメンネくらいが精一杯なのかもしれない。 日番谷は、それはそれは深いため息を落とした。 「たいちょー。機嫌直してくださいよー。甘納豆買ってきましたから」 そっ、と乱菊が隊首室の扉を開け、中をうかがう。 日番谷は一人で隊首席に腰掛け、ヒマそうに窓の外に視線を走らせていた。 入ってきた乱菊を見ると、机の上においてあった書類を乱菊に示してよこす。 「この報告書、総隊長に提出しといてくれ」 乱菊は、「吸血鬼の出現とその対処に関する報告書」と墨書きされたその紙に視線を落とし、ペラペラとめくって感嘆の声を上げた。 「いつもながら鮮やかですね〜!」 「草鹿からの報告書なんて、出せるわけねーだろうが」 憮然としたままだが、日番谷の声はどこか覇気がない。ぼんやりしているようにも見て取れた。 「……一体、どういうことだったんです? 王族の姫を結局助けられなかったのに、死神にはお咎めもなし。刺客も結局、現れなかったんでしょ?」 あー、と日番谷は彼には珍しく、おざなりに返事をした。 「全部あの姫の、掌の上だったってことだろ」 「……。どういうことです?」 「技術開発局によると、確かに刺客とやらの気配は接近してた。でも、間に合わなかったそうだ。それよりも先に、姫が目覚めて自分で帰ったからな」 「それならそうと、早く目覚めてくれればいいのに」 日番谷は、横目で乱菊を見やったまま、無言だった。 「なんです?」 「起きてたんだよ、初めから。初めに忍び込んだとき、夏梨が姫の声を聞いてたって後から聞いたんだ。間違いねぇ」 「はぁ? 狸寝入りってことですか?」 「面白かったんだろ。死神たちが、右往左往すんのが」 なるほど、日番谷の不機嫌の理由はこれか。乱菊は、茶箱を棚から出しながら、苦笑いする。 「でも、こういう見方も出来ますよ? 刺客があのタイミングで来れば、死神だって無事ではすまない。絶妙なタイミングで、あたしたちを助けてくれたんだって」 「分からねぇな」 日番谷は、どこか拗ねたような口調で続けた。 「王族なんて、天上人の考えることなんて想像もつかねぇよ」 「まぁまぁ」 乱菊は、湯気の立った湯のみと、お茶請けの甘納豆の乗った盆を、隊首机の上に置いた。 日番谷はため息と共に薫り高い茶を飲み下す。 自分でも無意識のうちに、机の上においてあった碧の宝玉を手に取っていた。 あの時、恵蓮が去り際に残していったものだ。 「うわー、綺麗! これあたしにくださいよ!」 肩越しに覗き込んだ乱菊が、それを見るなり歓声を上げた。 「こんなモンどうすんだよ?」 「女心が分かってませんねー。ジュエリーにするに決まってるじゃないですか」 ふぅん、と日番谷は口の中で声を漏らす。 「そういう使い方もあるか。ていうか、お前にはやらねぇぞ」 「なんですかー、どうせ上げるヒトなんていないくせに」 ぷぅ、と頬を膨らませた乱菊は、機嫌をとるように日番谷の肩を揉んだ。 「それともなんですか? 誰か、いるんですか? あげたい女の子の一人や二人」 「アホか、そんなもん、いるわけ……」 言い返した日番谷だが、言いながら、ふと視線を宙に向ける。 「……そうか。そういう手もあるか」 「は? 隊長、熱でもあるんですか?」 「うるせえよ」 振り返った日番谷を見て、乱菊は驚いた。 ―― 隊長が、微笑ってる? ついさっきまで不貞腐れていたのに。 隊長にそんな顔をさせるのは誰なんですか。 乱菊がそう問いかける前に、 「散歩してくる」 短い一言を残し、日番谷は唐突に、フッとその姿をくらました。 すとん、と肩に乗せていた手が宙に落ちるまで気がつかないほどに、それは見事な瞬歩だった。 「ちょ、ちょっと、隊長??」 乱菊は窓から身を乗り出すが、そこには春の風が吹くばかり。死神 対 バンパイア 完 ―― yyyy/mm/dd (2010/03/22 rewrite)