「……乱菊さん、なにか探しもの?」
雑談の合間にさりげなく訊ねられて見下ろすと、夏梨と目が合った。
やっぱり血が繋がった兄妹だけあって、一護と目の形がよく似ている。
もう頭から消し去ったつもりだったのに、無意識のうちに視線が周囲を向いていたらしい。
なかなか観察力が鋭い子だ、と心中感心した。

「ちょっと、ね。大したもんじゃないけど」
「え? 一緒に探そ?」
声を上げた遊子に、手を振ってごまかした。
見つかるはずのないものに、誕生日の貴重な時間を使わせるなんてあまりに可哀想だ。
「探す」なんて、似合わないことをしていると自分でも思う。そもそもそんな行動、向いていないと思う。
棚に閉まってある菓子を探す時でも、扉を開けたまま考え込んでいるうちに、
日番谷に「上から二段目の左端だ」なんて、呆れた声で教えられるくらいなのだから。
それなのに、あのかんざしのことが喉に引っかかった魚の骨みたいに忘れられない理由は、きっと二つある。
一つ目は、市丸からはきっと二度と、何かを贈られることはないから。
そして二つ目は、かんざしを飾っていた翡翠の玉が、日番谷の目の色と似ていたから。

スーパーの袋をひとつ提げた乱菊と、もうひとつの取っ手を片方ずつ持った夏梨と遊子の影が遊歩道に長く伸びている。
この遊歩道を抜けて一分ほどあるけば、黒崎家に到着する。
はたから見たら、自分たち三人はどのように見えるのだろう、とふとおかしくなった。
これで一護と日番谷までいたら、ますます何の集まりなのか分からなくなるだろう。
「お兄ちゃんも、冬獅郎くんもどこ行っちゃったんだろう?」
遊子はきょろきょろしている。乱菊はかるく息をついた。
「さあね。でも家に行くって二人とも言ってたから、家に帰れば会えるわよ」
心の中では首をひねっている。一護は二人の誕生日ケーキを取りに行ったのだろうが、
日番谷までどうして、「お前は先に行っとけ。俺は用がある」なんて言って姿を消したのか、理由が分からなかった。

「仕事はもう全部終わらせた」なんてシレッとした表情で言っていたが、日番谷が定時前に十番隊を抜け出すことは珍しいのだ。
現世に来る、なんて余計珍しい。偶然を装っていたけれど、自分の様子を見に来てくれたのだと分かっていた。
ということは、日番谷が現世に他に用事がある、ということは考えにくいのだ。
もしかして、かんざしを探し続けてくれているのかと思ったけれど、当てもなく探し続けても何にもならないことは確認済だ。
日番谷の霊圧を追った乱菊は、思わず「ん?」と首をかしげる。
日番谷と一護の霊圧は同じ場所にある。一護と一緒にケーキを受け取りに行ったということだろうか?
それとも、一護を自分の用事につき合わせているのか。ますますもって状況がよくわからない。


「……ねぇ、乱菊さん」
遊子の声に、乱菊は我に返る。くるりと丸い目といい、栗色の髪といい、将来織姫のような美人になりそうだ。
「冬獅郎くんと、どういうカンケイなんですか?」
ぶっ、と思わず乱菊は吹いた。
「ど、どういう関係って、上司と部下だけど?」
「今、仕事中じゃないよね。仕事じゃなくても、仲良しなんだなって思って。……冬獅郎くん、モテそうだし」
そうねぇ、と乱菊は空いているほうの手で頭を掻いた。
「確かにモテるわよ。天才だし給料高いし、ルックスもいいし将来性もあるし。いい物件だと思うわよ」
「冬獅郎くんのいいところは、そういうところじゃないよ」
すぱりと遊子は言い返してきた。
子供と侮れない。なかなかこの子の今の表情は「女」だと思う。
確かに、今の言葉は日番谷を褒めているけれど、日番谷の本質には掠りもしていない。
乱菊はその本質が何なのかを一番よく知っているけれど……日番谷を男として見るのは、昔も今も罪悪感があった。
そう思うとなぜか、心がズキン、と痛んだ。

「……乱菊さん?」
怪訝そうに見上げてきた夏梨を、乱菊は微笑んで見下ろした。
「隊長のことなんておいといて! 今日の主役はあんた達よ! せいぜいお祝いしてもらいましょ♪」
「……誰のことを置いとけって?」
呆れたような声が頭上から聞こえて、三人は同時に顔を上げた。
黒崎家の二階の窓枠に腕を乗せて、日番谷が顔を覗かせていた。