どこかで、一匹のヒグラシが鳴き始めていた。
ヒグラシだ、と思った時には鳴き声は伝播し、あっちの山からこっちの山へこだまする。
どこで鳴いていて、どれが山びこなのか分からない。急峻な山々が、両側から小さな山道に迫っていた。
長い一本道を行くお袋と俺の影が、道に長く伸びている。夕暮れが近いのだ。

お袋の額には汗が光っていた。臨月に近い妊婦だったから、後それと、ものすごく急いでいたんだ。
夜になる前にたどり着かなければ。何度もそう言っていた。
なぜ?
俺が訊ねると、夜になると鬼が来るのよ。そう言われた。あなたは特に気をつけなければ、と。
なぜ?
もう一度聞くと、お袋は脚絆に固めた足をふと止め、俺を見下ろした。壊れ物に触れるように、そっと抱きしめられた。


朱色の光が全てを染める。
俺はお袋から荷物を預かると、お袋の先に立って歩き出した。
一丁前にお袋を守るつもりでいたんだ。と言っても、あの頃の俺は小柄なお袋の胸くらいまでしか背丈がなかった。
腹にいたのはすぐ下の弟だったから、5歳だった、ということになる。
汗を流しながら坂道を登り、さらにその坂道を降りたところに、深い森に抱かれるようにして、その屋敷はあった。

その屋敷の門は、一面の藤の花に覆われていた。離れていても花の香りが匂うようだった。
不思議だなぁ、と思ったのを覚えている。藤の花が満開になる季節はとうに過ぎているのに。
それを思うと、全てはまるで夢の中の出来事のように思い出される。

でも確かに、俺は藤棚の下で遊ぶ、ひとりの女の子供を見た、と思う。
俺よりも少し年上で、黒髪が背中に波打っていた。小さな鞠を手に持っていた。
俺たちの気配に気づき、振り返った。その瞳は、藤の色を映したかのような、紫色だった。
ヒグラシの声が、ひときわ大きくなった。


―― 俺は下町の生まれで、普段は人ごみの中で暮らしていた。貧乏だったから、旅行の記憶なんてまるでない。
それなのにどうしてあの時、妊婦でありながら母親はあんなところにいたのだろう。
お袋を独占したいと願った、ガキの頃の俺が見た、ただの夢なのだろうか。
追いかけてくる闇の気配から逃げるようにお袋の手を引いた、汗ばんだ手の感触だけを覚えている。


***


玄弥は、緊張した面持ちで湯飲みに入った水を見下ろしていた。
意を決して、ぐいっ、と飲み込む。次の瞬間、まるで泥を飲み込んだような不快感が胃からせり上がってきて、あっと思う間もなく、吐いた。
「くっそ……」
鬼喰いをする前には、当たり前のように口にしていた、たかが水なのに。どうしても飲み込むことができない。
それは鬼を喰い、その力を利用してきた玄弥の業だった。力だけではなく性質をも取り込んだため、鬼のように人間の食事を受け付けなくなっていた。
水が飲めないなら、他の食物が飲食できるはずもなかった。

毒を飲んだようにさんざん苦しんで、身体の中に入った水を全部吐き出した後、
ほとんど減っていない湯飲みの中の水を覗き込んで、ぎょっとした。
映りこんだ自分の目が、一瞬鬼のように紅く染まっていた。
「……!」
ばしゃっ、と水を地面に投げ捨てる。乾いた地面に吸い込まれていくのを、情けない思いで見守った。

無惨は死んだ。それと共に、全ての鬼は滅びたという。それなのに、玄弥の中の鬼はいなくなってはくれなかった。
少し前は、無理すれば少しは飲食できたのに、明らかに悪化している。声を増し力を増し、自分の人間の部分を攻め立ててくる。
人間だった頃の自分に、少しでも戻りたい。「人間らしい」行動をしようとする自分を、どこかで鬼の自分が嘲笑っている。
―― おまえは飢えている。人間を喰らえ。鬼を喰らえ。
頭の中で常に響いているのは、他ならぬ自分自身の声。このままでは、自分がどうなってしまうのか考えるだけで恐ろしかった。


***


蝉時雨の中、玄弥は、身長よりも巨大な岩を押していた。
一山分の道のり―― 一度谷まで降りてから、頂上まで上っていくまでの数キロを片道として、
一日で三往復するのが、悲鳴嶼から課せられている修行の一つだった。
何度も何度も往復してきたため、岩を押した地面は抉られ、道のようになっている。

最初は、いくら押しても身体が後ろにずり下がるばかりで、岩を1ミリたりとも動かすことができなかった。
普通の鬼殺隊員は「呼吸」の力を駆使して岩を動かせるようになるのだが、
呼吸が使えない玄弥は、自らの力だけでそれを可能にした。単純な力だけで言うと、既に全盛期の悲鳴嶼を越えているのではと言われる理由だ。
しかしそれは、鬼化が進んでいるためかもしれない。そう思うと当然、素直に喜べなかった。

上半身裸の身体から、汗が滴り落ちる。太陽は少し西に傾いていたが、まだ夕方には間があった。
きつい修行ではあったが、一心不乱に何かにかかっていると、気が紛れる。
途中で少し岩が重くなったような気がしたが、すぐにまた、物思いに戻っていく。

―― 悲鳴嶼さんなら、話を聞いてくれる。
悲鳴嶼は、玄弥にとって師匠であると同時に父のような存在だった。
最も本当の父はろくでなしだったから、玄弥が想像する、理想としての父である。
どんな時でも岩のように動じず、誰よりも強く、そして圧倒的に厳しい存在。
今でも傍にいるだけで気持ちが引き締まり、緊張させられる。

でも今は、上弦の壱との戦いの中で和解できた兄と話したかった。
このことが相談できなくてもかまわなかった。ただ、隣にいて何気ない話をするだけで良かった。
兄は、玄弥にとってやっぱり「兄」だった。
玄弥では到底敵わないほどに強いのは悲鳴嶼と同様だったが、激情家であると同時に心優しい兄はどこか不安定なところもあり、追いつきたいと思うと同時に、いつかは守りたい背中でもあった。

しかし、無惨との戦いが終結した後も、続々と寄せられる鬼の出没情報の確認に柱たちは忙しいと聞いていた。
玄弥が修行している岩邸は藤の里からも遠い。会うことはおろか、連絡を取ることもできずにいた。



「兄ちゃん」
それでも、そう口にすると、少し心が軽くなった。
「なんだ」
また幻聴か。今度は兄の声まで。
「玄弥」
は、と顔を上げた。今まさに自分が押している大岩の上に、実弥があぐらを掻いて座り、玄弥を見下ろしていた。
「兄貴!」
いつからそこに。どうしてそこに。言葉が口をつきかけたが、驚きのあまり出てこなかった。
というより、気づかなかった自分にも呆れる。
「俺が岩に乗っても気づかずに押してるって、どうなってんだお前は。気づくだろ普通。馬鹿は力だけにしろォ」
その大柄な身体に見合わず、体重がないかのような軽い身ごなしで、ひょいと玄弥の隣に飛び降りてきた。
全く足音がなく、玄弥は驚いた。これなら確かに近づかれても気がつかないかもしれない。


兄と会うのは、無惨戦以来だった。
久々に会ったらまた避けられるか、冷たい対応をされるのではと心中恐れていたが、そんなことはなかった。
口は悪くなったものの、子供の頃そのままの気配に、ほっとする。
幼い頃はおんぶだの何だのと甘えていたことを思い出し、そのときの気持ちが蘇ってきて焦った。
「……お前。またでかくなってねぇか?」
実弥は玄弥を見上げて眉を潜めた。前はほぼ同じ目線だったのに、今は実弥が見上げる形ににあっている。
何となくその迫力から、自分より大きなイメージがあったから少し驚いた。

「兄貴はまた傷が増えたのか?」
「いや?」
身体のあちこちにはしる傷がいつもよりも多く見えたが、今日は上着を着ておらず腕が出ているからか。
任務で出歩いていたのだろう、鋼のように鍛えられた腕は小麦色に日焼けしていた。
それにしても、仮に傷が増えていたとしても同じ反応をされそうだ。驚くほどに自分の怪我に無頓着なのだ。
「それにしても、忙しいんじゃなかったのか?」
「今はそうでもねぇよ。今日は悲鳴嶼さんに呼ばれて来たんだが、在宅か?」
「あぁ、うん、中にいるよ」
自分に会いに来てくれたわけではないのか。少しがっかりしたが、それでも今までのことを考えると、普通に顔を合わせて話せるだけで嬉しかった。

「不死川! 待っていたぞ。玄弥、ここまで案内してくれ」
聞こえていたようなタイミングで、家の中から悲鳴嶼の声がした。そちらに向かいかけた実弥が、ちらりと振り返った。
「それにしてもお前、ひどい顔色だぜ」


悲鳴嶼の自室の障子を開けると、悲鳴嶼が床の間を背にして座っていた。その膝の上には、岩邸に居ついている野良猫が伸びている。
「二人とも座れ」
言われるがままに並んで座り、悲鳴嶼と向かい合う。
「悲鳴嶼さん、なんで泣いてるんですか」
二人を見るなり、滂沱の涙がその目から流れ落ちたので玄弥は焦った。
「お前たちが並んで座っているだけで、私は涙が出るのだ……」
「そんな大袈裟な」
実弥がやめてくれよ、とでも言いたそうな顔をした。事実言いたかっただろうと思う。
「兄は相棒、弟は弟子でもともと他人とは思えぬ上、兄は稀血だと分かるし弟は鬼喰いをはじめるし、順番に死に掛けるし、お前達は私の心労の種だ」
「……すいません」
考えるまでもなく、とんでもなく世話になっている人だ。悲鳴嶼が居なければ二人とも今ここにはいない。自然と、二人並んで頭を下げる羽目になる。
顔を上げると、はっとするほど優しい笑顔があった。

悲鳴嶼が手ずから淹れた茶を口に運びながら、実弥が話題を変えた。
「それにしても悲鳴嶼さん、調子はどうだ?」
「うむ」
悲鳴嶼は手首の少し上で分断された左腕を撫でた。無惨との戦いの中で左手を失い、そのときの重傷が原因で一時的に一線を退いていた。
「かなり調子が戻ってきたところだ。先日鋼の里から新しい武器を受け取ったところだ。後で手合わせを頼みたい」
「ああ、喜んで」
筆頭隊員の座を譲られたと言っても、変わらず実弥が悲鳴嶼を尊敬しているのが短い会話で伝わってきて、玄弥は嬉しくなる。
「忙しい身をこんな山奥まで呼び出して悪かったな」
「かまわねぇよ。いろいろひと段落してきたところだ」
「あちこちから鬼の出没情報が来ていると聞いたが――」
「確認してみたらどれも鬼じゃなかった」
実弥はそう言って首を横に振った。
「鬼が滅亡してもまだ、人々の心の中には鬼の恐怖が残ってるってわけだ。行ってみれば熊とかの猛獣だったこともあったな。そういえば、憲兵から依頼が来てふたを開ければ動物園から逃げ出した虎だった、ってこともあった」
「虎!?」
「鬼を身体ひとつで倒せるなら虎もいけるだろって腹だったらしいぜ。鬼殺隊を何だと思ってやがる」
「……で、兄貴、倒したの」
「殺すなとうるせぇから生け捕りだ。もうやりたくねぇ」
それはそうだろう。
目を剥くような話を数回のやり取りで切り上げると、実弥は結論付けた。
「とにかく今のところ、新たに鬼は見つかってねぇ。だから最近は出没情報の確認は柱じゃなく甲乙の隊員に任せるようになった。だからひと段落したって言ったんだ」

「オニナンテ、モウイネーンダヨォ!!」
突然素っ頓狂な大声が縁側から聞こえてびっくりした。障子の隙間から、一羽の烏が顔を出している。兄の鎹烏らしい。それにしても口調が兄そっくりだ。
一同の視線を集めると、
「サネミハ、ケンペイノサソイヲ、ウケリャヨカッタンダ。ギョーメイモ、テッキュウフリマワシテネェデ、ミノフリカタヲカンガエロ……ヨッ!」
最後まで言い終える前に実弥の指にビシッと頭をはじかれ、悶絶しながら烏は黙った。
「すまねぇ悲鳴嶼さん、この烏すげぇ口が悪ぃんだ。後で絞めとく」
「憲兵の誘い……? 兄貴、そんな話があるのか」
俺が尋ねると、実弥は少しバツが悪そうな顔をした。
「受けるわけねぇだろ。虎狩の時に声かけられたが断った。あっちが言うには、もう鬼は絶滅したんだから鬼殺隊も解散だろ、って話だ」
「うーん……」
一理ある、と玄弥は思った。産屋敷家と政府にはつながりがあり、無惨の死は伝わっているはずだ。
当初の読みどおりに無惨の死と共に鬼が滅亡したのなら、鬼殺隊はもう必要なくなる。
政府側からすれば、鬼殺隊隊員―― 特に超人的な戦闘能力を持つ柱は、口から手が出るほど欲しい逸材なのだろう。

「お館様は何かおっしゃっているのか?」
悲鳴嶼の問いに、実弥の表情が少し翳った。
「直接は、何も。でも、あの様子だと鬼殺隊の解散は当分ねぇな」
「なぜそう思う?」
「お館様はたぶん……鬼が滅亡したと思ってねぇ。むしろ、また現れるのを待っている気がする。産屋敷家の先見の明は知ってる通りだし」
「……なるほど。実は私も、そんな気がしている」
悲鳴嶼は驚いた様子は見せなかった。実弥が続けた言葉に、玄弥はドキリとする。
「もともと鬼の力を持っていた奴が、そのまま持ち続けてる―― ていうのも、お館様の懸念のひとつだ。竃門の妹しかり、俺しかり」
「竃門の妹は、禰豆子といったか」
「あぁ。人間に戻ったのに、あの鬼だけ燃やすとかいう力はそのままらしい。後、動きも常人じゃねえ」
「お前の力も?」
「そのままだ。むしろ強くなった気もする」
実弥はそう言いながら、嫌そうな顔をした。誰よりも鬼を忌み嫌っている兄が、鬼の力を手にするとは皮肉なものだ、と玄弥は思った。
無惨との戦いの中で、実弥は突然、血鬼術としか言いようのない、風の呼吸に似ているが遥かに逸脱した力を遣うようになった。
玄弥と違うのは、完全に人間の姿のままで、鬼の力を使ったというところだ。
しかし先ほど茶を飲み干していたところを見ても、玄弥のように鬼化に悩まされていることはなさそうで、それだけはほっとした。

また物思いにふけっていたらしい。気づくと、悲鳴嶼と実弥が玄弥を見ていた。
「……で、こいつもどうやら鬼喰いから抜けてないみたいだな。今日の要件は玄弥のことか?」
二人の視線を浴びて玄弥は緊張した。ここに来て、自分も部屋に通された理由に思い至ったからだ。

「ああ」
玄弥がどう伝えようか考えている間に、悲鳴嶼は頷いた。それから、猫の頭を撫でながら手短に説明した。
無惨が死に時間が経っても、未だに鬼喰いの症状が進み続けていること。力を増している反面通常の食事が喉を通らず、日に日に憔悴していること。
目が見えず、一度も相談したこともないのに、驚くほど玄弥の現状を理解していた。
「そんなことだろうと思ったぜ」
ため息をつかれて、玄弥は大きな身体を丸めて縮こまった。
自分のためにわざわざ、悲鳴嶼は実弥をここまで呼び寄せてくれたのか。
「すいません悲鳴嶼さん、兄貴も……。って、何やってんだ?」
実弥が脇に置いていた刀を手に取り、無造作に抜き放った。
「失礼」
そして、自分の左手の甲をためらわずにすぱりと斬った。鮮血が指に向かって滴り落ちる。
「無惨戦の中で、鬼化したこいつを戻したのは、たぶんこの稀血だろ。口にすれば効果あるか?」
玄弥は慌てて立ち上がった。
「いや! それは絶対にだめだ! 俺はもう二度と……ふごっ!」
しゃべっている最中に、口の中に実弥の拳が飛んできた。ものすごく痛い。自分と兄の血が口の中に混ざって広がり、玄弥はむせ込んだ。
「これでいいのか? 悲鳴嶼さん」
「……うむ、まぁ、平たく言えばそういうことなのだが……。お前は話が早すぎて実も蓋もないな」
「納得していただいてからってか? 無理だろそんなの。おい。何か変わったか?」
口元を押さえたまま、玄弥は動けなかった。実弥に頭を小突かれる。
「何とか言え」

完全に鬼化したあの時に玄弥を人間に戻したのは、確かに稀血だった、と玄弥は身をもって思い知らされていた。
鬼を喰らえ。人間を喰らえ。直前まで頭の中に響いていた声が、止まった。頭の中が静かになり、それだけでずいぶん意識が明瞭になった。
身体が、軽い。鬼喰いをはじめる前の自分に戻った気さえする。

でも、それを兄に伝えるわけにはいかなかった。
無惨に鬼として無理やり蘇った時に、稀血を欲してボロボロの兄を襲ったことは、玄弥の中で耐え難い悔恨を残している。
「良さそうだが……前に口にした時からの時間を考えたら、あんまり長持ちはしなさそうだな」
しかし見る限り兄は、その時のことを露ほども気にしていない様子で、悲鳴嶼から渡された手ぬぐいで手を拭いている。もう出血は止まっているようだった。
「でも、俺は、こればっかりは嫌だよ……」
きっとまた鬼化が進み、その度に兄の血を飲むなんて、もうそれは人間ではない。
「ぐだぐだ言うんじゃねぇ。お前の鬼化は進んでる。今すぐ止めなきゃやべぇんだろうが。都合よく俺が酩酊稀血で、一時的にでも人間に戻す力がある。
そこまで分かってて使わない方法があるか?」
胸倉を取られそうな勢いで詰め寄られ、その迫力に押される。兄の言うことは正しい、というか他に手段はないのだろう。でも。
「そうだったとしても、俺はとてもそんな風には割り切れねぇ……」

それに。初めて口にした時も今も、稀血を一瞬でも「甘露のように美味」だと感じたことは、絶対に言えない。
どれほど押さえてもコントロールできない、鬼は自分の中に巣食ったままだ。考えるだけで、自分自身に吐き気がした。
自分を傷つけるのに何のためらいもない兄の姿を目の当たりにするのも、心が痛かった。

黙って見守っていた悲鳴嶼が口を開いた。
「お前の気持ちは分かる、玄弥。しかし、このまま万が一でも鬼になれば、私はお前を討伐するほかなくなる。それはここにいる誰の望みでもない。
……私と兄のためと思って、耐えてくれないか」
いつも厳格な悲鳴嶼には珍しい、命ずるのではなく頼む口ぶりだった。師にそう言われて、玄弥は何も言えなくなる。
悲鳴嶼は、ため息をついた。
「私が不死川をここに呼んだ理由の半分は、今済んだ。あと半分だが……」
そう言いかけたのを、玄弥の腹の虫が遮った。