日番谷隊長は仕事においては、瀞霊廷一の鬼である。

「嵐が来たぞーーー!!」
十一番隊隊舎の門が大きく開かれ、門を開けた二人の隊士が大声を張り上げる。
「な、なに……!」
「ついに今月も来たか!」
動揺する十一番隊士たち。しかし、逃げることは許されない。
果たして開かれた門の真ん中に立っているのは、彼らの隣の隊舎の主、十番隊隊長・日番谷冬獅郎である。

「日番谷隊長! 今月も『美しく』お願いします♪」
ムダに瞬歩で現れたのは、第五席・綾瀬川弓親。
妙にくねくねしたムダの多い動作で、紙の束を差し出した。

その紙の束、とは。
言わずと知れた、十一番隊に割り振られた、業務の数々である。
曰く、担当地区に虚が現れた。曰く、正体不明の事件を調査せよ、等々。
一ヶ月間一指も触れられていなかったそれらは、すでに二寸を越える幅に達している。

日番谷はその分厚さにも臆することなく(諦めたともいうが)、鷹揚にうなずくと、ぱらぱらとその束をめくり、何枚か手馴れた動作で引き出す。
そして、それを弓親の手に付き返す。
「了解です!」
こんなにかよォ、などとグチを垂れることなく(きっとそれは美しくないと思っている)、弓親はあくまで優雅に受け取る。

残りの紙に目を落としながら、日番谷はズカズカと十一番隊舎に足を踏み入れる。
そして、通り過ぎざまに、
「お前はこれやっとけ」
「お前にはこれだ」
そう言って、次々と業務を十一番隊士に振りまいていくのである。


恐らくこの隊長、更木よりもよほど、十一番隊士の適性を的確に把握している。
目にした隊士にもっとも適性のある仕事を、速やかに見つけ出し、そして指示する。
その目がいかに慧眼かは、草鹿やちる副隊長には、今の今までいかなる仕事も割り振ったことがないことからも明らかだ。

文句を言おうにも、これはそもそも十一番隊の業務なのだから言いようがない。
さらに、彼らが上官は最奥の部屋で今もきっと昼寝中なのだ。尚更何も言いようがない。

暗黙の了解として、業務を言い渡されれば即やらなければならない。
なぜなら、そのほとんどは既に期限がとっくに過ぎているからである。
そのため、受け取った隊士はそれを見るなり青くなり、次々にすっ飛んでゆく。
日番谷隊長のゆくところ、人っ子一人残らないといわれる由縁である。

さらに、十一番隊舎を通り抜ける10分ほどの間、一度も立ち止まったことがない、という伝説もある。
実際立ち止まるどころか、足を緩めるのを見た隊士さえいないらしい。

「これ更木にやらしとけ」
最後の数枚を後ろにいた第三席、斑目一角にヒラリと落として、日番谷は十番隊舎に帰って行く。
「今月もお疲れさんでした!」
その後姿に、(生き)残ったものは全員、頭を下げて見送るのだった。

十一番隊に月に一度訪れる、嵐。
陰では「小」嵐、と呼ばれていることは日番谷本人だけが知らない
(ちなみに、やちるが引き起こす様々な面倒は「極小」嵐とよばれる)。

 

余談だが、この嵐は十三番隊舎にも、たまに訪れるらしい。
肝心な時に血を吐く癖のある隊長がおられるからだろう。
十三番隊舎の中では、この嵐のことを「小」隊長のお成り〜、と呼ぶらしい。
もちろんこのことも日番谷だけが知らない。
水と油ほど違う二隊だが、小さいものを小さいと思う発想は同じなのだった。

 
***


そんな状況であるからして。
ある日、やちるが一角と弓親に向かって、
「ひっつんに氷もらってきて、カキ氷作ろうよ!」
と言い出した時、一角と弓親は二人して手を横に振った。

ミーンミーン、ミーンミーン、しゅわしゅわ……

外では蝉の大合唱が響く、うだるような暑さの8月の昼下がりである。
もちろん、業務時間中、である。


「ンな命知らずなこと止めた方がいいっスよ。仕事中の日番谷隊長に、カキ氷作りたいから氷輪丸で氷を出してくださァい♪
なんて言おうものなら、氷漬けにされかねないス」
一角は日番谷の眉間に深く、それは深く刻まれたシワを思い浮かべる。

「更に恐ろしいことに、『来たならついでにこれやっとけ』とか言って、仕事を振られるかもしれませんよ?」
仕事を一度も振られたことのない、やちるには分からないかもしれないが。
ひょい、と渡されたこの仕事で死に掛けたり、あの仕事で一週間徹夜したり。
日番谷の采配はかなりスパルタなのである。

「ぜんっぜん大丈夫だよ!あたし、ここ二週間毎日、氷出してもらってるもん!」
な、なに?
一角と弓親の顔がひきつる。
あの日番谷隊長相手に、14連勝中?

「おいっしーよ! つるりんとゆーみんも行こうよ!」
さっさと先に立って歩いていくやちるの背中を見て、一角と弓親は顔を見合わせる。
そして、興味半分、カキ氷食いたさ半分に、よっこらしょと体を起こした。