彼の地は長年、日の光からも見放され訪れる者もない、一切のぬくもりが死んだ場所。
灰色の砂塵が風に巻き上げられ、宙に舞う。

地の色も、空の色も、全てが灰色の水の中に浸けられたように同じ色だった。
崩れ落ちた建物の残骸が、鈍色(にびいろ)の景色の中に沈んでいる。

元のかたちが何だったかも分からない残骸が散乱する中、とある一角だけ、人の気配が残っていた。
おびただしい数の細い板切れや棒、折れた刀や鉄が、地面に突き立てられている。
何かの法則性があるのかそうでないのかは、一瞥しても分からないが、まるで不ぞろいな剣山のようだ。

その地にふと、一陣の風が吹き抜けた。
そして、その風の行く末を見届けた人影が、ひとつ。


ざっ、ざっ、と草履の足を踏み出すごとに、足元の砂埃がかき乱されて舞い上がった。
「知らなくて、良かったのに」
棒や刀が突きたてられた中を、真一文字に唇を引き結び、うつむきながら通り過ぎる。
「求めてはいけない、こともあるのに」
黒髪、が。風に溶けるように、灰色の宙に踊る。
「夢はいつか終わると、分かっていたのに」
その力ない道行が、不意に、止まった。

「ルーツに辿り着いた、その瞬間に」

膝の力が抜け、その人影は音もなく地面に崩れ落ちた。
その場の砂塵に刻まれた草履の足跡に、震える指を差し伸ばす。
しかしその指をすり抜けるように風が吹きぬけ、足跡は一瞬の幻のように掻き消えた。
慟哭が、灰色の空に吸い込まれた。



ROOTS ―― ルーツ ――






last update:2010年 3月 8日