連綿と続く曇り空のような、憂鬱で重苦しい夢を見続けていたような気がした。
随分と青空を見ていない。
低く垂れ込めた灰色の雲を見上げる。
胸の奥に、澱が積み重なってゆく。
重いんだ。
誰かに叫びたいが、声が出ない。
―― あぁ。
自分の嘆息に、あまりにも実感が篭っていて……日番谷の意識は、急速に浮上した。


―― いい加減、起きねぇと……
俺がサボったら、誰が十番隊の仕事を片付けるんだ?
寝込んでる雛森の面倒も、見なきゃいけねぇし。
わざわざ見舞いに来ながら、部屋にも入らず消えた吉良のことも気にかかる。
チンタラ寝てる場合じゃ……

「おっっはよ!!」
朝の挨拶に名を借りた大音響が響いたのは、その時。
「な……」
日番谷は反射的に、バネ仕掛けの人形のように起き上がり……目の前にあった何かと正面衝突した。
「ってー……」
おかげで、一気に目が覚めた。
目覚めた端から顔面をぶつけるなんて、あまりにも隊長らしからぬ失態だ。

ジンジンと痛む鼻先を押さえ、周りを見回した時……目の前にうずくまっている人物に目が行った。
「ひ……雛森?」
自分と同じように顔を押さえ、粗末な畳の上で悶絶しているのは、紛れも無い雛森の姿。
しかし、いつもの死覇装姿ではなかった。
薄い桃色の着物をまとい、藍色の帯を締めている。襟元からも、帯と同系色の襦袢が覗いていた。
邪魔になるから、と死神になってからお団子にまとめていた髪も、すんなりと背中に伸びている。

「い……たぁ」
顔を上げた雛森を見て、日番谷は心中首を傾げる。
「お前、ちょっと太ったか?」
ガシッ、と首元に力強い感触を感じた。
ん? と思うまもなく、襟首を掴んだ雛森の顔が、日番谷の目の前にあった。
「太った……ていうのは禁句だって言ったでしょ。あ? シロちゃん」
「シロちゃんじゃねえ、日番谷隊長だっつってんだろ!」
心中で若干怯えつつ、負けじと言い返す。
しかし、雛森の反応は、いつもと違っていた。
「?」が十個くらい頭の周りに浮かんでいる。

「タイチョーって、隊長のこと? なんの??」
「へ?」
何のって。
今度は日番谷が固まる番だった。
こいつ、ストレス溜まりすぎて、健忘症にでもなったか?
そっ、と雛森の表情をうかがう。

日番谷の心配など知る由もなく、雛森はケラケラと笑った。
「なーによシロちゃん、うなされてるかと思ったら、夢みてたの? 寝ぼけちゃダメだよ」
その屈託のない表情に、日番谷はめまいを感じた。
なんだ? どうなってんだ?

それにしても、雛森が、こんなに満面の笑みを浮かべるのを、久しぶりに見たと思う。
雛森が笑っているときは、後姿を見ても、肩だけ見ても、「笑ってる」と分かる。
でも、藍染に裏切られてからの雛森の笑みは小さくなった。
顔だけの、作られた、人形のような……悲しい笑みばかり見ていたから。
それに、薄くなってしまっていた肩も、やつれていた頬も、ふっくらとして見える。
だから、太ったように見えたのだ。

「もぅ。ぼーっとしちゃって。今熱いオカユ作ってたから。食べたら目が覚めるよ」
雛森はふっと優しい笑みを浮かべると、その場から立ち上がった。
同時に、日番谷の視界が広がる。
―― ここ……潤林安の家じゃねえか……

日に焼けて、白っぽくなった畳。
節くれ立った柱。
使い込まれて、深い艶を放つ小さな箪笥。
ガラスも嵌っていない、粗末な木製の窓は今閉められている。
10畳ほどのその空間の中央には、赤々と炎が揺らめく囲炉裏があった。

見間違えようもない、日番谷が祖母と、雛森と暮らした流魂街の家だ。
しかしこの家は、日番谷が隊長になってから建て直したため、今はなくなっているはずだった。
―― 夢、か。
限りなく現実と感覚が近いが、こんなのが現実な訳がない。
―― 冗談じゃねえ。早く起きねぇと……
そこまで考えた日番谷は、ハタと考え込む。
頬をつねって夢かどうか確かめる場面は知っているが、目覚めるにはどうしたらいいんだ?
夢なんだから、放っておいてもそのうち、目が覚める気はするが。

ふんふん、と鼻歌を歌いながら、雛森は土間に立ち、こちらに背を向けている。
葱でも刻んでいるのだろう、包丁の音が、眠くなるような単調なリズムで響いている。
鼻歌と拍子をとるように、その右足のつま先が、リズミカルに地面を突く。
隣には、火にかけられた鍋がしゅんしゅんと音を立てていた。
―― 静かだ、な。
音は充満している。
しかし、耳を穏やかに通り過ぎるそれらは、決して耳障りではない。
これほど凪いだ気分を、日番谷は久しぶりに味わった。

 


「はい、できたよ。シロちゃ……」
雛森が振り返った時だった。日番谷の肩が、不意にビクン、と揺れた。
「? どうしたの?」
さすがに異変に気づいた雛森が、眉間に皴を寄せる。
日番谷の視線は、雛森が右手に持った包丁の、白い煌きに向けられていた。

決然と日番谷を見据える瞳。
その瞳に浮かんだ、涙。
そして、日番谷の首元に突きつけられた、雛森の刃。

「―― っ!」
日番谷は、意識が深いところに堕ちそうになった瞬間、無理やり意識を引き戻した。
「大丈夫?」
包丁をまな板の上においた雛森が、座敷に上がると、心配そうに日番谷を覗き込んだ。
肩に置かれた雛森の手が、一瞬、刃物のように冷たく思えた。
「……大丈夫だ」
横目でその手を見ながら、日番谷はゆっくりと目を閉じる。

―― 大丈夫だ。
雛森が俺に刀を向けたのは、単なるマチガイだ。勘違いだったんだ。
もう二度と、あんな惨劇(こと)は起こらない。たとえ、夢の中であっても――
でも、いくら頭で説き伏せたところで、あの瞬間に感じた混乱は未だに生々しい。
日番谷冬獅郎が、雛森桃に殺される。
一瞬でも想像してしまったその景色は、思い出したが最後、何度でも意識を責め立てる。
そして、思い知らされるのだ。
何事もなかったかのように消し去ることなど、絶対にできはしないと。
「……雛森」
不意に口を開いた日番谷が、外からの足音に言葉を途切らせた。

 

二人の視線の先で、戸口がガララ、と音を立てて引き開けられる。
ヒュウッ、と吹き込んできた冷たい風に、雛森が肩をすくめた。
「……寒」
言いかけて、日番谷はハッとする。
―― 寒い? 俺が?
氷雪系の力を操る日番谷は、極端に寒さに強いほうだ。吹雪の中でも、寒さを感じないほどに。
それが、隣にいる雛森が身震いしているのと同程度に、寒さを感じるとは。

―― 霊圧が、消えてる……?
夢なんだから、何が起こってもおかしくないのだが。
改めて探れば、自分も、雛森も、凡人と変わらないレベルにまで霊圧が落ち込んでいた。
夢は、現実の願望を映す鏡だという。
でも、こんなに力が必要な時に、霊圧をなくしたいと自分が思っているとは、思えなかった。

「遊びに来たよー!!」
元気な子供の声に、日番谷は我に返る。
寒風に頬を真っ赤にし、土間に入ってきたのは、隣の家で暮らしている辰吉とあゆ美だった。
満面の笑みを浮かべた二人に感じたのは、居心地の悪さ以外のなにものでもない。
潤林安にいたころ、この二人は日番谷のことを避けていた。
嫌われていたというよりも、霊圧を制御できてなかった自分を恐れていたのだろう。
互いに存在を気にしてはいたが、口を利くことはもちろん、目を合わせることすら碌(ろく)になかったのだ。
これが外なら、さりげなくその場を外せるが、ここは狭い家の中。
ふたりが立っている戸口を通らなければ、外へは出てゆけない。
―― 困ったな。
自分らしくない感情が広がった時だった。
日番谷の肩を、誰かがガッ! と掴んだ。

「シロー君、顔色悪いよ? 大丈夫?」
……この声、あゆ美か?
考えられないことだった。殊の外日番谷に怯えていたあゆ美が、触れてくるなんて。
振り返った日番谷は、更に衝撃を受けた。
……あゆ美の目が、見事にハート型だ。
「……」
なんだ? この夢では、こういう設定なのか?
日番谷の心に、さっき浮かんだ言葉がまたよみがえる。
―― 夢は、現実の願望を映す鏡だという。
さすがに、これはねぇだろ。
日番谷は頭の中で突っ込んだ。

「あたしと二人で、でーとしようよ! そしたら元気になるよ」
「へっ?」
さきほどまでとは違った意味で、日番谷はたじろいだ。
現実の世界では、日番谷はモテるらしい。らしい、というのは、乱菊がいつもそう言っているからだ。
護廷十三隊の隊長ともあろう者を、正面切って口説く女性などいないため、日番谷本人に自覚はないが。
だから……こういうアカラサマな態度には免疫がなかった。

その時、もう片方の肩を後ろから掴まれた。
「ちょっと! 何言ってんのよいきなり!」
振り向けば、それは雛森だった。あゆ美に向かって、本気で怒っている。
―― なんでだ? つーか、何やってんだ?
ガミガミやりあっている二人を眺めて、日番谷が途方にくれていた時。
「お前は、いいよなぁ」
いつの間にか近くに来ていた辰吉が、日番谷に耳打ちした。
「桃ちゃんとあゆ美、両方に惚れられるなんてさ。桃ちゃん、俺にくれよー」
「……」
日番谷はその時、己の深層心理を疑った。
こんな願望を持ってんのか、俺は?

日番谷の当惑など知るわけもなく、辰吉は少女二人に向き直った。
「ケンカするために遊びに来たんじゃないだろ。表で、コマ回し大会やってんだ。お前らも来いよ」
「あ、行く行くー!」
雛森が、さっきまでの剣幕はどこへやら、辰吉に笑顔を向ける。
「ね、シロちゃんも行くでしょ?」
ぐっ、と詰まった日番谷だが、すぐに諦めた。

―― 毒を食らわば皿までだ。
夢から覚める気配も、今のところないし。
ここでコマ回しを拒んで家にいたところで、早く夢から覚めるのでもなさそうだし。
案外、ミスッた誰かのコマでも頭に飛んでくれば、目が覚めるかもしれない。
それに……認めるのも何か嫌だったが、ちょっとだけ、この夢を楽しんでもいいか、という気分になっていたのである。

 
***
 

夕刻。
冷たい風に、ちぎれた綿のように乾いた雪が混じる。
子供達の影が、長く長く後を引いた。
「じゃーね、また明日!」
コマ遊びに興じていた子供たちが、次々と家路に向かう。

「シロー君、こんなにコマ回し強いなんて知らなかった!また教えてね!」
「あ、俺にも、俺にも!」
あー。
日番谷は適当に返事をする。
どうせ夢なんだから、ちょっとだけ。
そう思ってコマ回し大会に参加し、あっさり優勝し、コマ作りの腕まで披露してしまった。
「どうせ」とか、「ちょっとだけ」どころじゃない。

ただ……正直言って、楽しかったのだ。
隊長らしい威厳なんて考えなくてもいい、子供じみた時間が。
こんなに屈託なく笑ったのは、護廷十三隊に入隊して以来じゃないかと思った。

「桃ちゃん、おうちに帰ったら、足診てもらってね!」
そんな声も日番谷に向かって投げかけられる。
正確には、日番谷の背に負ぶわれた、雛森に。
「う、うん……」
照れ笑いした雛森が、背中で身じろぎするのを感じる。

寒さに抵抗力がなくなった体に、雛森のぬくもりが心地よかった。
雛森の右足には、白い手ぬぐいが、包帯代わりに巻かれている。
―― 全く、コマ回し大会で足をくじくなんて、どこまでドジなんだ。
結局夢でも現実でも、面倒ばかり見ているような気がする。
日番谷がそう思ったとき、
「シローくん、重いでしょー」
隣を歩いていたあゆ美が、からかうように雛森を見る。
「お、重くなんて……」
雛森が口を尖らせて、恥ずかしそうに黙った。
「重くねーよ、別に」
肩をすくめて、俺は返す。
霊圧と共に体力も失ったらしい日番谷にとっては、本当は言うほど軽くはなかったが。


角を曲がったところで、日番谷はふと、足を止めた。
そこには、圧倒的な存在感で、荘厳な瀞霊廷がそびえていた。
明るい夕日に照らされて朱に染まった、白い建物。
それは、それこそ夢のように美しかった。

「あ! あそこにいるの、死神だぜ!」
「わー、かっこいいね! 憧れちゃう」
あゆ美と辰吉の言葉に、日番谷はふたりの視線の先を追った。
―― 総隊長……
杖を手にした、老死神の姿は、見間違えようがない。
現実と同じ、厳しい表情で、周りの死神に何かを指示している声が聞こえてきた。
一人が日番谷の方を、ちらりと見やった。
―― 朽木ルキア。
遠目でも、その黒目がちな大きな瞳が、こっちを見ているのが分かる。
しかしその表情は何も反応せず、すぐに総隊長に戻された。
「すごいねー、死神さんって。大変なんだろうね」
雛森の無邪気な声が背中から聞こえ、日番谷はしばし、考え込む。

もしも、雛森も日番谷も、凡人と同じように霊圧を持たなかったとしたらどうなっていただろう。
もちろん、二人とも死神になることはなく、この夢のように流魂街に留まっただろう。
日番谷は、高すぎる霊圧のせいで皆に避けられることもなく、普通の子供として毎日を送ったはずだ。
雛森も、藍染と会うこともなく、憧れることもなく。裏切られることもなかった。
そして……日番谷と雛森が刃を向けあうような未来もなかったはずだ。
現世には、余計なことが起こりすぎたんだ。ふと日番谷は思う。

深刻な表情で何かを相談しあっている、死神たち。
でも、その会話はもう気にかからなくなっていた。
「帰ろうぜ」
日番谷は、瀞霊廷に背を向けた。

 

「ばいばい、また明日ね!」
「うん、また明日!」
「じゃぁね」
辰吉とあゆ美と別れ、日番谷は雛森を負ぶったまま、ゆっくりと家へ向かう。

「どうしたの、シロちゃん。さっきからボーッとして」
「……なんでもねぇよ」
雛森の声を聞くと、熱に浮かされて藍染を呼んでいた、雛森の声を思い出す。
―― 「藍染……隊長」
その頬を伝う無意識の涙を、どうしてやることもできなかった。
傷を負えば手当てしてやれる。熱を出せば看病してやる。
でも、心にまで入っていって、ぽっかりと開いた穴を、埋めてやることはできないんだ。
その胸の穴の形は、きっと日番谷の形とは違っているのだ。
雛森が求めているのは、自分ではないのだから。

「シロちゃん」
日番谷の首に回された雛森の手に、力がこもった。
「あったかいね」
その声が、あまりに安心しきったもので。
日番谷はつかの間、足を止める。
「シロちゃんが、いてくれてよかったよ」
不意打ち。
日番谷の頭に、そんな言葉がよぎる。
それと同じ言葉を、少し前に聞いたことがある気がする。

―― あぁ。
五番隊の私室でそれを言ったときの雛森の声音は、こんなじゃなかった。
―― こんな悲しそうな声で、そんなことを言うんじゃねえよ。
そう、思ったものだ。
思わず、日番谷は振り返った。
夢の中の雛森は、眠ってはいなかった。
心から幸せそうな顔で……頬に朱を刷いて、微笑んでいた。
だから、日番谷もやっと返せた。
「俺もだ」
雛森の頬の朱が、見る見る間に濃くなるのを目の端に捉え、日番谷は慌てて前を向く。
これは、ただの夢。現実と現実の狭間の、ちょっとした一休み。
だから、ちょっとくらいいいか。夢に休んでも。

 
***
 

闇の中に、深深と雪が降り積もってゆく。
日番谷は、ゆっくりと引き戸を閉じ、狭い部屋を振り返った。
囲炉裏の炎が静かに燃える小さな部屋は、まるでかまくらのように閉じていて、あたたかい。
「あらあら、この子は、風邪引くよって、いつも言ってるのに」
布団の上に座ったまま、うつらうつらしだした雛森を見て、祖母の梅は微笑んだ。
「んー……分かってる」
寝ぼけ眼で、雛森が頷く。コテン、とその頭が膝に落ちた。

狭い布団いっぱいに、3人分の布団を引いて。
梅と雛森と日番谷の3人で、取りとめもない話をした。
今年の冬はいつもより寒いようだ、とか。
最近出来た甘味処の餡蜜(アンミツ)がうまい、とか。
話しながら眠くなって、眠って、起きたときにはもう忘れているほど取り留めのない。

―― 夢の中で寝たら、どうなるんだろう……
日番谷は、そんなことを考える。
夢で寝て、次に起きるときには、現実の世界なんだろうか。
そうだとすると、少し……もう少し、起きていたい気がする。
「寝ないのかい? 冬獅郎」
「あぁ、あんまり眠くないんだ」
行灯の傍で胡坐をかき、薄い本をめくる日番谷を、梅は黙って見つめた。
「なんだよ? ばーちゃん」
「……お前は、どこにもいかないだろうね」
「え?」
文字を追っていた目が、ぴたりと止まる。

「何でだか分からないんだけどね。お前と桃が、この家を出る夢を見たんだよ。
こんな風に雪が降って、隣の家の声も聞こえないような夜に、私はたった一人でねぇ。
さびしくて、辛かった。今朝お前たちの寝顔を見てほっとしたよ。
お前たちが私を置いていくなんて、あるはずないのにねぇ」
……あぁ、ばあちゃん。
俺は、そういう未来を知っているよ。
ばあちゃんを一人取り残してまでも家を出て、死神になる道を選んだ未来を。

「本物の」ばあちゃんは今頃、たった一人でうちにいて、きっと俺達のことを思っている。
帰ってやりたいと心から思う。
屈託なく三人で一緒にいられた、あの時に。
でも、どこで道を間違ってしまったのか。もう、戻る道が分からないんだ。
もう、永遠に見つからないとでも言うように。

でも、それが現実だ。
これはたかが夢だ。事実じゃない。
俺の願望が見せる、幻に過ぎないんだ。
それなのに、俺は。

「冬獅郎、どうしたんだい」
立てた片膝の上に腕を乗せ、その上に顔を突っ伏した日番谷を見て、梅は怪訝な顔で歩み寄った。
「冬獅郎?」
問われても、日番谷は顔を隠したまま、頑として上げようとしない。
「変な子。どうしたんだろうね、一体」
皴だらけの手が伸ばされ、日番谷の銀色の髪をゆっくりと撫でる。
「怖い『夢』でも、見たのかね」
これが、「夢」だというなら。俺が知っている現実は、「悪夢」に違いない。
「……どこにも行きやしねーよ、俺は」
自分に言い聞かせるように。日番谷は、そうつぶやいた。