iPhoneの画面をタップして、facebookを表示する。画面を指でスクロールして、今日の更新を確かめる。電車の扉にもたれかかり、通り過ぎる景色を何となく眺める。外は空も建物も灰色で、今にも雪が降ってきそう。ホワイトクリスマスになればいい。なんとなく、気持ちが弾んでいる。サンタクロースは信じないけれど、もしもサンタに願うなら。異世界に住むあの人からのメッセージが、このiPhoneに表示されればいい。

なんてね。

プシューッと音を立てて、電車の扉が開いた。南口の改札に、次々と人が吸い込まれてゆく。私は階段を何段か下りて、改札をくぐった。紅茶屋さんにお花屋さん、通りを隔てて無印良品。その更に先に、私のお気に入りのお店があった。グラスやお皿などの食器類や、入浴剤などのバスグッズ、家具から文房具から盆栽まで、そのお店にはちょっと頑張れば手が届くような、おしゃれなものが並んでいた。もちろん、今の私に必要なものではないけれど。いつか大人になったら部屋をこんな風にしたいとか、考えると楽しかった。

お店に入って一歩目で、私は立ち止った。うわぁ、と心の中で漏らして、視線は天井の方に向いた。天井につくほどの高さの巨大なクリスマスツリーが、入口に飾られていたからだ。木は本物のモミの木で、近づいて行くと湿った木のにおいがした。ツリーはきらきらしたボールや天使の人形や、星や白い綿でゴージャスに飾り付けられている。一つ一つに値札がついていて、とても私の財布では手が出ないものばかりだった。その中に、ひとつだけ小さな赤いサンタクロースがくっついていて、私の視線は吸い寄せられた。

その小さなサンタクロースは、人差し指くらいの背の高さで、細くて小さく、フェルトの赤い服を着て、赤いとんがり帽子をかぶっていた。申し訳程度に白いひげがついていた。そして、豪華なツリーの中で、間違えて迷い込んでしまったように所在なさげにしていた。私は値段をひっくりかえしてみた。680円。他のものに比べて一ケタ違う。

―― 一緒にくる?
心の中で話しかけて、そっとツリーからサンタクロースを外した。今から、夢の国に連れて行ってあげる。あの人は、クリスマスの話をしたらどんな顔をするだろうか。






* last update:2013/8/26