※そんな長くないですが、一応目次です。


騒ぎがあってから、一ヵ月後。
「……で」
一護は、微妙な表情で、訪れた日番谷に問いただしていた。
「全部うやむやになって……お前は夏梨の魂を、無事現世に戻せた、ってことだな」
「ああ。説明する必要もねぇだろ。現に1ヶ月も前に、夏梨は帰ってきただろ?」
「ああ、オカゲサマでもうピンピンしてるけどよ。……ていうか、こっち向いてくれね? 冬獅郎君」
「もういい。疲れた」
何がもういいのか分からないが、一護の部屋に来た途端、「気をつけ」の体勢のまま、ベッドにうつぶせに沈み込んで動かないのだこの少年は。
謹慎中だったという一ヶ月の間に、それはひどい目にあったのかもしれない。

一ヶ月前、もう6時も近いころになって、唐突に夏梨がうめきだしたのだった。
―― 「息が戻っているぞ!」
興奮したルキアの声に急かされるように、隣のクロサキ医院に運んだのが、もうずい分昔のように思い出させる。
体のあちこちに打ち身を負っていたものの、死因となっていた頭の傷だけは消えていた。
父の一心が、頭に怪我がなかったのは奇跡的だ、と言ったほどなのだ。
大事を取って三日間、夏梨は学校を休んだが、その後は普通に学校に通っている。
何事もない日常が戻ってきていた。

ばっったり、と布団に倒れている日番谷の背中を、一護は見下ろした。
くつくつと、笑みがこみ上げてくる。
「何笑ってんだ」
顔だけ一護に向けた日番谷は、仏頂面である。
「いや、だってよ。結局なんだかんだ言って、いっつも夏梨を助けてくれるよなって思ってよ」

ルキアに後で聞いたことだが、日番谷は文字通り身を挺して、夏梨を護ろうとしてくれたらしい。
彼がそんなことをする必要は、全くなかったにもかかわらずだ。
どうして、夏梨をそこまでして護ってくれるんだ。
それを、あえて聞こうとは思わないけれど。

不機嫌そうに、日番谷が口を開こうとしたとき、バタバタと階下から元気な足音が聞こえてきた。
「冬獅郎―!! 来てたのか!」
満面の笑みで、夏梨が疾風のような勢いで部屋に飛び込んできた。
ランドセルを乱暴に床に置くと、寝転んだままの日番谷に駆け寄る。
ここまで嬉しそうに夏梨が笑うことは、実はそうないのだと一護は知っているから。
余計、ヤボなことはいえなくなるのだ。

「何ふてくされてんだよ? なぁなぁ、教えてくれよ!」
「あぁ? 何を……」
日番谷が面倒くさそうに布団の上で上半身を起こすと、くるりと胡坐をかいて夏梨に向き直った。
「死神のなりかた!」
「はぁ?」
返したのは、一護と日番谷が同時だった。
そんな、インスタントラーメンの作り方みたいな気軽な調子で聞くことじゃないと思う。

「京楽とかいうオッサンも言ってたでしょ、あたし才能あるもしれないんでしょ?あたし、死神になるんだ。もう決めたんだ!」
「京楽の言ってたことなんて、信用できるかよ」
一護が何か反論を考える前に、日番谷が言い返した。
「これだけは言っておくぞ。死神になるなんて、絶対にダメだ!!」
「何でだよ! あたし総隊長さんに約束しただろ!」
「絶対に忘れてる。耄碌してるから」
前から思っていたが、日番谷には年長者に対する敬意が欠けている。一護はそう思う。
「夏梨。死神にはなんな」
「代行やってる一兄には言われたくないね!」
「死ぬかもしれねぇんだぞ。もう懲りただろ!」
日番谷は、心から嫌そうに言い放つ。というよりも、今回の件で最も苦労したのは日番谷だと思う。本来、関係ないはずなのに。

「とにかく! あたしは死神になるから。サッカーボールで虚倒したことがあるから、使えると思うんだ! 持ってくるね」
そういうと、夏梨は背中を返した。バタン、と一護の部屋の扉が閉められる。
「おい冬獅郎、どこ行くんだよ」
「瀞霊廷に帰る。夏梨が死神になるなんて、冗談じゃねぇよ。つきあいきれねぇ」
「……素直じゃねぇよな、お前はよ」
「あぁ? 何言ってやがる?」
日番谷は、ただ、心配なだけなのだ。死神がどれほど危険な仕事か、身に染みて分かっているだけに。

「黒崎こそ、お前の妹だろ? かまわねぇのかよ、死神めざすなんて言わせておいて」
「……まぁ、な」
むろん、一護だって心配だ。でも、日番谷とは少しだけ、違うことを考えていたりする。
夏梨は、絶対に引かないだろう。
日番谷に護られるだけじゃなく、日番谷を護れる存在になりたいと、思っているからだろう。
それがどれほど難しいか……いや、不可能に近いんじゃないかと知りながら。
そんな夏梨を少しだけ、応援したいような気もしているのだ。
もちろん、それは死神にならなくても、できることだとは思うが。

「……とりあえず今日は、サッカーの練習にでもつきあってやるか」
一護はそう言うと、立ち上がった。
「本当にありがとうな、冬獅郎。お前は夏梨の命の恩人だ」
窓から外に出ようとしていた日番谷は一瞬、瞳を揺らがせた。ふん、とすぐにいつもの調子を取り戻す。
「日番谷『隊長』だ! 何度言ったら分かるんだ」

もうこんなのはゴメンだ、いつものペースに戻る。日番谷は、そう思っていたに違いないのだ。一護と夏梨の叫びが、耳に届くまでは。
「うわぁっ!!」
「あぁっ夏梨! また落ちるなぁ!」
「いい加減にしろ、てめぇらああ!!」
日番谷の叫びが、黒崎家に響き渡った。



DEATHQUINCE-1 FIN.


30万HITS記念企画、日夏でした。フリー小説です^^ えーと、配布期間は40万HITSまででどうかしら(適当)
DEATH(死神)QUINCE(カリンちゃん)-1(前夜)というタイトルどおり、
死神になりそうな夏梨ちゃんで、日夏展開にしました。

実は日乱も同じくらいリクエストを頂いていたんですが、日乱は今何本か並行して書いているので、しばらく書いてない日夏を選びました。
短期間、マイナーな場所での告知にも関わらず、リクエストを頂いた方ありがとうございました!
切香より愛を込めて。

[2009年 10月 4日]