もくじ。
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乱菊を追い出し、肩で息をしている日番谷の背後で、クスッと笑い声がする。
振り返れば遊里道が、わずかに頬を緩めていた。
生真面目なきりりと眉の濃い男で、目元も涼しい。背は高くないが、姿勢がいいため元々の身長よりすらりと映えて見える。
「松本副隊長は、いつでも隊長のことを気遣っておられますよ。陰ながら、今年も隊長を支える場面は数多かったかと思います」
差し出がましく申し訳ありません、とまじめに頭を下げるのを見て、しぶしぶながら頷いた。
乱菊が、日番谷のいないところで様々な気配りをしていることを、日番谷も薄々気づいてはいる。
ただ、やってくれているそのことに、日番谷は滅多に気づくことができないのだが。
「……それより、遊里道」
「はい」
「十三番隊から、書類を引き取ってきてくれ。目立つなよ」
あの浮竹のことだ、残務が残っていると知れば、血を吐きながらでも仕事しそうだ。
新年になって本格的に倒れられたら困るからな、と自分を納得させる。
「お優しいんですね、隊長」
「全体の円滑な運営のためだ」
この、自分よりははるかに年上の部下に見透かされているようで、日番谷はそっぽを向く。
だがすぐに、視線を戻した。
「そういえばお前のとこ、もうすぐ子供が生まれるんだろ? いいのかここにいて」
「覚えていてくださったんですね」
遊里道は芯から嬉しそうに大きく頷くと、大丈夫ですと笑顔で答えた。
「予定日は1月中旬ですから。……隊長、実はひとつお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」
急に改まって頭を下げた遊里道に、日番谷は向き直る。
「子供の、名づけ親になって頂きたいのです」
「……は」
これには、驚いた。思わず、間抜けな返しをしてしまったほどだ。
「な、名前なんて、つけたことねぇよ」
「何でも構いません。隊長が大切と思われる言葉を一文字、わが子に頂ければ望外の幸せです」